
こんにちはDXレスキューヨコヤマンです。
「アンケート集めといて」「市場調査しといて」
──そんなふうに軽く言われて、どう進めればいいのか頭を抱えたこと、ありませんか?
目的もターゲットも曖昧なまま、とりあえず回答データを集めてみたものの、「で、これどう使うの?」と自分でも途方に暮れてしまう…。
実は、こうしたアンケートには、ちょっとしたコツと準備が必要なんです。
本記事では、マクドナルドの「サラダマック」の失敗事例と、ヘンリー・フォードの「もっと速い馬」という言葉を切り口に「顧客の声」マーケティングの本質についてほりさげていきます。
顧客の声がヒットにつながらない?
─2つの失敗事例に学ぶ本質
事例1:マクドナルドの「サラダマック」が売れなかった理由
日本マクドナルドは、顧客アンケートで繰り返しあがっていた、「ヘルシーメニューがほしい」「サラダを入れてほしい」という声に応え、野菜たっぷりの「サラダマック」を開発し販売を開始しました。
しかし、「サラダマック」の売れ行きは振るわず、短期間で市場から姿を消しました。
一方でその後に登場した「クォーターパウンダー」や「メガマック」など高カロリーで満足感の高いメニューは大ヒット。
この対比が示すのは、顧客の「声」と実際の「購買行動」の間にある深いギャップです。
事例2:フォードの「もっと速い馬」に隠された本質
ヘンリー・フォードはこういったとされます。
「もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは『もっと速い馬が欲しい』と答えていただろう。」
人々の本当の望みは「早く移動すること」でしたが、当時の常識の範囲ではそれを「馬」という形でしか表現できなかったのです。
フォードはこの表面的な声の奥にある本質的な欲求を見抜き、「自動車」という新たな解決策を提示しました。
なぜアンケート結果と行動が一致しないのか
「社会的望ましさバイアス」の影響とは?

人はアンケートに答える際、無意識に“良い人”であろうとします。
健康志向の高まりを背景に「サラダを選びたい」と答えても、実際の購買行動では満足感やコストパフォーマンスを優先してしまう。
これが「社会的望ましさバイアス」です。
自己申告による調査や、個人の行動や意識に関する質問では、社会的に「良い行動」を過大に「悪い行動」を過小に評価されやすく、結果の解釈には注意が必要です。
「言うこと」と「行動」のギャップを見抜く
顧客の“建前”ではなく“本音”を捉えるには、言葉だけに頼ってはいけません。
「~が欲しい」と言っている背景には、どんな課題や感情があるのか。
真のニーズは、行動や選択に現れます。
私たちは、顧客が求めているのは「モノ」そのものではなく、それによって得られる「価値」=「コト」であると捉えています。
正しいアンケート設計のための実践ポイント
アンケート調査は、効率的に大量のデータを収集できるという強みがありますが、その一方で「社会的望ましさバイアス」などの影響を受けやすいという落とし穴があります。
特に自己申告ベースの質問設計では、表層的な“声”が実態とずれてしまうケースも少なくありません。
ここでは、バイアスを最小限に抑え、より正確で実用性の高いデータを取得するための設計ポイントを紹介します。
バイアスを避ける6つの調査設計テクニック
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- 中立的な質問設計
- 質問文が特定の回答を誘導しないような言い回しが大切です。
「この商品は好きですか?」ではなく、「この商品についてどう思いますか?」と尋ねることで、自由な意見を引き出しやすくなります。
「どう思いますか?」と聞くことで自由な回答を促す
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- 匿名性の確保
- 本音を引き出すには安心感が必要です。
匿名アンケートであることを明示し、可能な限り個人が特定されないような設計にすることで、回答者はより率直な意見を出しやすくなります。
本音を引き出すには安心感が必要
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- 質問や選択肢の順序をランダム化
- 表示順の固定によって生じる“初頭効果”や“後光効果”を避けるため、可能な限りランダム表示機能を活用しましょう。
影響を最小限に
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- 中立の選択肢の有無を調整
- 「どちらでもない」「わからない」といった選択肢は、回答者のストレスを減らす反面、深い意見を得づらくなる場合もあります。
設問の目的に応じて慎重に判断しましょう。
設問の目的に応じて判断
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- 事前テストの実施
- 調査前に少人数でテスト実施し、質問の意味が正しく伝わっているか、回答に偏りがないかを検証します。
これにより設計ミスを事前に防ぐことができます。
予想外の誤解や偏りをチェック
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- 回答者の多様性確保
- 特定の属性や価値観に偏らないよう、年齢・性別・地域・職業など多様な層から回答を集める工夫が必要です。
定量調査 × 定性調査で深層心理に迫る
アンケートなどの定量調査は、数値として傾向や割合を把握するのに優れています。
しかし、その背景にある「なぜそう答えたのか」という動機や感情までは読み解けません。そこで活用したいのが、定性調査です。
定性調査では、以下のようなアプローチによって、数値だけでは見えない「深層心理」に迫ることができます。
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- 行動観察(エスノグラフィー)
- 実際の購買行動や使用シーンを観察することで、本人すら気づいていないクセや無意識の行動を捉えられます。
特にUX設計やリアル店舗での導線改善に有効です。
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- デプスインタビュー(1対1)
- 個別の深い対話を通じて、「なぜそう思うのか」「過去のどんな経験が影響しているのか」といった文脈まで掘り下げることが可能です。
回りくどく感じる話の中にこそ、リアルな価値観が見え隠れします。
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- グループインタビュー(FGI)
- 複数人の会話の中で相互作用が生まれ、個別のインタビューでは出てこなかった意見や潜在ニーズが引き出されることがあります。
「あ、それ私も思っていた」といった“共感”がキーワードになります。
このように、定量で傾向を掴み、定性で背景を読み解くことで、顧客の「表面の声」ではなく「本質的な欲求」へアプローチできます。
さらに近年では、定性調査の結果をナレッジ化して、定量調査の設計に反映するといった相互補完の流れも進んでいます。
たとえば、デプスインタビューでよく出るワードや視点をアンケートの選択肢に活かすことで、より実態に近い定量データを得ることができます。
インサイトを捉えるための多層的アプローチ

インサイトとは、直訳すると「洞察」や「発見」を意味しますが、マーケティングの文脈では「顧客自身も気づいていない深層心理」や「行動を引き起こす動機」を指します。
例えば、ヘンリー・フォードが見抜いた「もっと速い馬が欲しい」の背後にあった「より早く移動したい」という欲求が、その代表的な例です。
では、そうした深層のインサイトを正しく捉えるためには、どのような方法があるのでしょうか。
多角的なデータ収集と分析
インサイトの精度を高めるためには、単一の調査手法だけに頼らず、複数のデータソースを組み合わせて顧客理解を立体化することが重要です。
数字だけでは語れない本音や感情、行動の背景を浮き彫りにするために、以下のような手法を組み合わせて活用しましょう。
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- 定量調査(アンケートなど)× 定性調査(インタビュー・観察)
- アンケートで得られる傾向に対し、「なぜそうなるのか?」を深掘りするために、行動観察やインタビューを併用することで、理由や感情の文脈が見えてきます。
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- 行動ログや購買データの分析
- 実際の購買行動やWeb上での操作履歴など、言葉では出てこないリアルな意思決定の痕跡から、行動ベースのインサイトを抽出します。
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- A/Bテストやスモールテスト
- 施策の違いによって反応がどう変わるかを検証し、顧客が何に価値を感じているかを数値で把握できます。
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- アイトラッキングや脳波測定などのインプリシット調査
- 言葉に出す前の反応、無意識の注視ポイントなどから「顕在化していない関心・違和感」を探ることができます。
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- データ間の相互補完
- たとえば、デプスインタビューでよく出る表現をアンケート設問に反映するなど、定性から定量へのフィードバック設計も有効です。
これらを組み合わせることで、「答えとしての声」ではなく「行動としての真実」に近づくことができます。
フィードバックループの継続
インサイトの抽出は、一度きりの調査で終わるものではありません。むしろ、顧客の変化を継続的に捉えていくプロセスこそが、より実践的なマーケティングの鍵となります。
施策を打ちっぱなしにするのではなく、次のようなフィードバックループを設計・運用していくことが求められます。
- 仮説を立てる(顧客は○○に反応するのでは?)
- 検証施策を実行する(A/Bテストやミニキャンペーンなど)
- 結果をデータで振り返る(数値・行動・反応)
- インサイトをアップデートし次に活かす
このサイクルを継続的に回すことで、変化の早い市場環境においても、顧客との理解を更新し続ける組織力が備わっていきます。
また、定点観測としてのアンケートや、アップデートごとのユーザビリティテストなどを継続的に行うことで、「過去の常識」に頼らないマーケティングが可能になります。
アンケートシステムで顧客理解を深めるには
アンケートは、設計と運用の仕方次第で「信頼できる意思決定の材料」にもなれば、「ミスリードを生む罠」にもなり得ます。
そのため、バイアスの少ない設計と柔軟な運用を支えるアンケートシステムの選定が非常に重要です。
ここでは、より実践的で効果的なアンケート設計を支援するシステムの特長を紹介します。
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- 柔軟な設問分岐やカスタマイズ設計
- 回答者の属性や前の回答内容に応じて、次に表示する質問を変える「ロジック分岐」が可能なシステムなら、関係のない質問をスキップさせ、離脱率を下げられます。
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- ユーザーフレンドリーなUI/UX
- スマートフォンでも快適に操作できるインターフェースや、視覚的にストレスのないデザインは、回答完了率の向上や無回答・誤回答の防止につながります。
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- リアルタイム分析と即時修正機能
- 集計状況を確認しながら、調査の途中でも設問や選択肢を修正できる機能は、「設計ミスに気づいたけど後戻りできない」リスクを減らします。
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- 外部ツールとのデータ連携
- CRMやBIツールなどと連携すれば、アンケートデータを顧客データと掛け合わせて分析可能。
より立体的な顧客像の把握やセグメント分析が行えます。
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- 簡単なプリテスト実施機能
- 本調査前にテスト配信が簡単に行えることで、設問の分かりづらさやバイアスの発生ポイントを事前にチェックし、調査精度を高めることができます。
CSモニタは、こうした設計思想をもとに、匿名性の確保と回答しやすさの両立にこだわって開発されたアンケートシステムです。
おわりに:顧客の「声」ではなく「真意」に耳を傾けよう
アンケートは、ただ「聞く」だけのツールではありません。
問いの設計次第で、集まるデータの質も、そこから得られる洞察も大きく変わります。
顧客の言葉をそのまま鵜呑みにするのではなく、「なぜその回答をしたのか」「本当に知りたいことは何か」を逆算して設計することが、質の高い調査への第一歩です。
設問の文言、選択肢の構成、流れ、バイアスの回避、回答しやすさなど──細かな工夫の積み重ねが、「表面的な声」ではなく「意思決定に役立つ真のインサイト」につながります。
そして、そのインサイトこそが、商品・サービス改善、顧客理解、ひいては企業価値の向上へとつながっていきます。
「アンケートを作る人」が変われば、「ビジネスの意思決定の質」も変わる──
本記事がそのきっかけとなれば幸いです。